ひつじの窓

物語とか思ったこととか

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「広樹くん、私はそれでも広樹くんのことが好きだよ。」

 

しっかりと彼の目を見つめながら話を続けた。

 

「でもね、やっぱり私にとって忘れられない出来事で、この辛さをなかったことにすることは出来ないのも事実だと思う。話を聞いて、あぁそう言うことだったのかって自分の中で処理することは出来たけど、ふとした瞬間に思い出しちゃうことはあると思うんだ。別にあなたを恨んでいるとかそういうわけじゃないんだけどね。」

 

私はそう言うと自分のアイスコーヒーの中に浮かんでいる氷をストローで押し付けた。

 

「でも好きな気持ちってさ、やっぱりそんな簡単に消えるものじゃないんだなってことも同時に学んだ。これは私にとって大きな収穫だったよ。今まで私はあまり本気で誰かを好きになったことがなかったからさ。広樹くんと出会うまで、こんな気持ちになったことは一度もなかった。」

 

私はストローでまだ溶け残っている氷をクルクルと回し始めた。

 

「別れるのが怖いから別れないだけじゃんって言われたら、そうかもしれないね。でもそれでもいいと思うの。別れたくないのに別れることはないんじゃないかって。それに…」

 

彼の視線を感じた。

 

「それに、 人は変われるから。」

 

そう言うと彼の目を見て微笑んだ。

 

自分の中で何かが吹っ切れた瞬間だった。

 

「でも、次はないからね。」

 

「うん。」

 

お互い視線を合わせた。

 

「あ、あとこれもちろん広樹くんの奢りだよね?ご馳走様でした。このアイスコーヒー美味しかったね。また今度来よっか。」

 

今日初めて彼の笑顔を見た気がした。

 

幸せのカタチは人それぞれで、何かで推し量れるものでもない。

 

隣の芝は常に青い。

 

お互いの想いが通じ合わないことだって、ボタンを掛け違えてしまうことだってある。

 

言わなきゃ分からないこともたくさんある。

 

そんなことを学んだ出来事でした。

 

真夏の三連休が終わる。

 

END