ひつじの窓

物語とか思ったこととか

d-4

…PM13:40

 

ずいぶん寝たようだ。

 

クーラーを消してから寝たため部屋はすでに蒸し風呂状態。

 

私はすぐにクーラーの設定温度を下げて扇風機を回した。

 

二酸化炭素濃度の高い空気が循環し始める。

 

私は起き上がりLINEをチェックした。

 

誰からも連絡はなかった。

 

顔を洗うために洗面台に向かうと部屋から着信音が聞こえてきた。

 

急いで戻り、電話に出ると広樹くんからだった。

 

「今日ひま?」

 

「ぁーうん、今起きたところなんだけど。何か用?」

 

私がぶっきらぼうに聞き返すと、少しの間の後いつもより少しだけ低い声で、

 

「話したいことがあるんだ。15時半に東京駅。どう?」

 

…話したいこと。

 

私の心臓がバクバクし始めた。

 

嫌な予感がする。

 

会いたくない。

 

「話したいことってそれ今電話じゃ無理なの?」

 

咄嗟に出た言葉だった。

 

自己防衛なのか、会ったら傷つくと無意識に思ってしまったのだろう。

 

「無理ではない。けど、俺は会って話した方がいいと思うんだ。」

 

しばらくの沈黙の後、わたしは意を決して答えた。

 

「わかった。15時半に東京駅ね。」

 

ツー、ツー

 

電話が切れた。

 

顔を洗い、化粧をし、今年初めての花柄のワンピースを身にまとい、バッグに読みかけの本を押し込み、お気に入りのサンダルを履き家を飛び出した。

 

私の家から東京駅までは約50分。

 

遠くもないが、近くもない。

 

話ってなんだろう…。

 

最寄り駅まで歩いている間も電車に乗っている間も気が気じゃない。

 

電車の中では本に目を落とすものの頭の中に全然入ってこない。

 

文字を目で追うだけで精一杯だ。

 

待ち合わせの10分前に集合場所に到着した。

 

辺りを見渡したがまだ彼は来ていない。

 

私は到着した旨を彼に伝え、再び本を読み始めた。

 

10分後、予定通りの時刻に現れた彼はいつもより笑顔が少なかった。

 

私の悪い予感は的中したのか。

 

「お待たせしちゃってごめんね。カフェにでも入ろっか。」

 

そう言うと彼は私を駅構内のカフェへと案内した。

 

東京駅構内はとても混雑しており、私たちは移動中何も話すことなくひたすら歩き続けた。

 

「ごめんね突然呼び出しちゃって。」

 

アイスコーヒーを一口飲んだあと彼から切り出してきた。

 

「ううん、私も寝てただけだから。」

 

…ところで用事って何?

 

と聞く勇気は出なかった。

 

しばらくたわいもない話をしたあと彼から話を戻してきてくれた。

 

「今日なんで呼び出したかって話。ごめんまだ言ってなかったよね?実は俺、今まで言えなかったことがあってさ。」

 

そこまで言うと彼はまた黙り込んでしまった。

 

10分くらい経ってからだろうか。

 

再び彼は落ち着いたトーンで話し始めた。

 

「どうして友梨奈は俺が弘美と会ってるの知ってたのに俺のこと怒らなかったの?」

 

あぁ、そのことか。

 

弘美は彼と同じ大学の医学部生だ。

 

2人は同じ部活に所属していたこともあり私たちが付き合う前から親交があったようで、かなりの仲良しだった。

 

もちろんそこに恋愛感情はないと思っていた。

 

というのも弘美には彼氏がいたからだ。

 

しかしある日、バイト帰りに彼らがラブホテルから手を繋いで出てくるのをこの目で見てしまったのだ。

 

あまりの衝撃で、この日以来私は違うルートでバイト先に向かうようになった。

 

そのため私がその光景を見たのはたった1回だけだった。

 

しかし彼らは頻繁に会っていたようで、私たちの共通の友人からも目撃情報を聞かされた。

 

友人らには早く別れた方がいいと諭されていたが、私には現実を受け止める勇気がなく目を背けていた。

 

私、何か悪いことしたかな…

 

1人家にこもっていると涙が溢れてきた。

 

食欲もなくなり、体重は2.5キロ落ちた。

 

その間も何食わぬ顔で遊びに誘ってくる彼と会っては関係を持っていた。

 

会っているときはとても楽しかったし、彼がそんなことをしているなんて微塵も感じられなかった。

 

だからこそ、1人になってからの寂しさや心の痛み方は尋常ではなかった。

 

ただただ耐えていた。

 

彼はもしかしたら私より弘美のことが好きなんじゃないかな。

 

私と知り合う前から仲良かったしなぁ。

 

本当は私が浮気相手なんじゃないか。

 

もしそうなら早いとこ別れてあげた方がお互いのためだ。

 

そう思いながらも彼と会っている時は、今までと何一つ変わらぬ笑顔で接していた。

 

彼はそのことに気づいていたのか…

 

なんだかとてつもなく気まずい。

 

でも今しか言うチャンスはないかもしれない。

 

そう思って私は彼に思っていることを全て伝えることにした。